バトテニTOP>>長編テキスト(プロローグ)>>0XX『昔話』




”彼”は黙って空を見つめていた。
でも、オレは知っている。今の”彼”は空なんて見ちゃいないし、何かに思いを馳せてたりもしてないんだ。
ただそこにある世界の、自らの破滅を望んでいる。

崩壊を望む、壊れた心。
壊したのはこの世界と、彼自身。

「大丈夫…君の望む世界はオレが与えてあげる…。」
あの日、最後に言われた言葉を思い出す。
『俺達はこの先の未来を潰す…例えどれだけの犠牲を払おうと、心が壊れようとも。』
冷酷に発した言葉の表面で滑らかに溶けた、あのどうしようもなく悲しそうな横顔が、
今でもオレを揺さぶっている。

「そう………今日で…”戦争”は終わりだ………」

そして。
オレは、最後の引き金を引く………大切な、友の為に。






BATTLE XX 『昔話』









「…さてと。君達の意見を聞きたいな。」

そう言って、教壇へと立った男は黒板に書かれた文字の並びに驚く子供達にそう問いかけた。
白い肌。優しげな微笑を作ると、ウエーブのかかった髪がさらりと揺れる。
「わたし、人なんて殺したくないなぁ…。」
「でも殺さないと死んじゃうんでしょ?もうお菓子もたべられなくなるんでしょ?」
「薄情者。」
「オレたちよりお菓子かよ!」
「別にいいじゃん!!」
「でも、戦争なんだから死ぬ事は仕方ないんじゃないかな?」
「でも………。」
子供達はそれぞれ自らの意見を言い合い、男は優しげな微笑をたたえてそれを聞いていた。
世界は再び幸福になり、そこで子供達は今、戦争と言う悲劇を学んでいる。
風化させない為に、伝えて行く為に。
男にはそれは自分達に残された使命であると感じていた。

「……先生。」
「あ、なんだい?」

議論がいまだ飛び交う教室内。その中で一人の少年が声をあげた。
色素の薄いやわらかい髪。目の下の泣きホクロ。
男はゆっくりと目を細めた。
「どうして今日はこんな話をするんですか?社会科でも、ないのに。」
「それはね………………………。」
男は言葉を切った。
「今日は、昔話をしようと思ったんだ。」
「昔話?」
「そう―――俺が子供の頃の話だよ。」

この話を切り出すまでに男は何年もの時間を必要とした。
何回もの涙ととまどい、襲い掛かる後悔や憤りを乗り越える事が必要だった。
彼にとって”それ”は虚無感でしかなく、
また、他の者―――全てを知る、ごく一部の人間―――にも苦痛でしかなかったから。

そして、それをへて男は教壇に、戦争を知らない子供達の前にいる。




「… これから話す話は作り物なんかじゃないし、外国の話でもない。
俺が子供の頃…ちょうど君達よりほんの少し大きい時にこの国であった、本当のお話だ。」

俺の説明じゃ、良く解らないかもしれない。
でも聞いて欲しい。感じて欲しい。
絶望が支配する島で、本当に大切なものを見つけようとした人達の事を。
回避しようのない争いを命がけで止めようと活動した人達の事を。
そして。
今の君達がどれだけ恵まれた環境にいるのかもね。

………君達も一人の人間。
辛い事、あるだろう。悩んでいる事、不安な事があるかも知れない。
自分の人生の先が見えずに希望や夢を持てず、どうせ足掻いても、と背中を丸めているかも知れない。
実際、俺にもあったから…。
でも。決してくじけないで欲しい。
自殺とか、あきらめようとか、逃げ出そうとか思わないで欲しい。
もし、そんな思いになってしまったら。その時には、これから語るこの話を思い出して欲しい。
…なぜなら、コレは決して”過去の話”なんかじゃないから。
この先もずっと引き継がれていくべき…現在進行形の話だから。

「手遅れになるその前に、この話が君達の心の中でひとつの経験になれば…俺は、嬉しく思うよ。」

男はそう言い、ゆっくりと話始めた。
子供達を苦しめたこの国最悪の法律の話を。
そして、その残酷な運命に立ち向かっていった少年達の話を。








「昔ね。この国では戦争よりも辛い戦争を行っていたんだ。」






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