バトテニTOP>>長編テキスト(2日目)>>033.5『軌跡』




『8月9日
 『記憶』が足りない。
 もうじき、こんな風に『今日』という日を思い出すことはできなくなるだろう。
 …どうやら自分を保つことすらも厳しくなっているようだ。

 この島で起こるバトル・ロワイアルもまた、自分ではどうにも止められない所にまできてしまった。
 誰も望まぬとも命が奪われ、心が砕かれ、血の慟哭に苦しみ続ける悪夢の島。
 もはや、誰の危険を伴わずに『成功』に導くのは不可能だろう。
 実際伴うつもりのない犠牲を自分は払ってしまった。
 …その点については恐らく『アイツ』がケリをつけるだろう。
 だから、俺は今、他でもない俺にしかできないことを果たさなければならない。
 『この戦いの全てを記憶し、隠蔽されるであろうこの戦いと命を後世に残す』、残された使命を。
 そして―――                   。

 恐らくこれが最後のメモになる。
 そして次の行動が恐らく 自分が行うべき 最後の仕事になるだろう。
 
その場所へ向かうその前に このメモを見ている人間…
 願わくばこの戦いを未来へ伝える事を志してくれる人間に向けて一言伝えておけb』





残されたメモは全てを映し、全てを語る。





こうして一人このメモと対峙するたびに、
俺は託されたこのメモが示す『真実』を、きちんと子供達に伝えられているのだろうか…
失われてしまった彼らの分まで生きているのだろうか…と思う。

迷う心
戸惑う思い
忘れてはいけない希望
呼び出してはいけない絶望
捨ててはいけない友情
あふれる不安…考え始めればキリがない。

それらを振り払う為に俺は教壇に立つ。
未来にこの戦いの悲惨さを伝える為に、俺は子供達の前に向かう。
「……。」
自分はもう逃げない。迷わない。
彼らが…”彼”があの島で何よりもほしいと願ったもの。
…それを実現する為に、自分はこの世界に『残され』、『生かされた』のだから。

「さぁ…そろそろ続きをはじめようか。」






全てはここにある。
全てはここからはじまる。




そして、またみんなでテニスをしよう…?






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