バトテニTOP>>長編テキスト(プロローグ)>>003『冷酷』




自分が生きる為に命を奪い、他者を生かす為に自身の命が奪われる。
それは自然の摂理であり、逃げる事の出来ないもの。
実際、俺達は常に何かを殺し、その血肉を得て生きている。
毎日を何かの犠牲の上に立っている。
植物を草食獣が食べ、肉食獣がそれを食べ、人間がそれを食べる。
生きること=食べることである、この世界。

でも、そうやって命を奪っておきながら、
同族…人間を生きる為とは言え、『殺したくはない』と思ってしまう。


…人間とは非常に身勝手な生物で。












BATTLE 03 『冷酷』









「ん…ここは…??」

ふわふわとする頭。上手く視界が像を結ばない。
ずいぶんと深く眠ってしまったようだと未だにガンガンと不快な痛みを伴っている頭を押さえながら、
忍足は伏されたままの上体を起こし、現状を確認する為に辺りを見回した。
はじめはぼやっとしていた視界。
目をこすり、頭を振れはゆっくりと覚醒と共に鮮明になってくる。
「鳳?………と………黒板?」
まず映ったのは机に凭れた状態で寝かされている巨体―――鳳の後姿。
その向こうにはやけに綺麗に掃除された黒板。床は軽くささくれており、所々に木片を突き出している。
何か零れたのだろうか。やけに色の付いた染みも多かった。
周りにはやはり同じようにして合宿に参加していたメンバーが寝かされている。
「………?」
その異様さに驚いて右を見れば、
『5年1組 1班 係活動』と稚拙な文字が描かれた紙が張られた、2つ目の小さな黒板。
左側を向くと、何か(恐らく木板だろう)に塞がれ向こうが見えなくなった窓。
光は入ってこず、外の景色も日光も何も入ってこない。
他には黒板の左上にかけられた時計で今が『10時』である事を判断できる程度のものしかない。
「ここ…小学校か???」
残されている装飾や机からみても、学校、それも大きさから考えて小学校である事は間違いないだろう。
しかし、教室にしてはやけに薄暗く、埃臭く、床にはささくれが見て取れる。
児童の安全を考えた場合、こんな場所を教室として使うだろうか?
…恐らく、ここは廃校になり、放置されてしばらく経った建物なのだろうと忍足はそう結論付けた。
しかし、ココでもうひとつの問題が持ち上がる。
『なぜ、自分達はこんな所に集められているのだろうか。』
自分達は合宿の為にホテルに向かっていた筈だが…と思い出した忍足は
とりあえず現状を少しでも把握しなければならないと、手前にいた鳳を少々乱暴に起こす。
情報と頭数が足りないのなら、起こして手に入れるまで。

「ちょ、鳳、おきぃや。」
「う…………………あ、れ?忍足さん、おはようございます…もう練習ですか…??」
「寝ぼけとる場合やない。」
「…え?」
「鳳。俺ら今、小学校の教室らしいとこおるみたいなんやけど…何か知っとるか?」
「あれ…ここ何処ですか?」
「なんや、自分も知らんのかいな。」

後ろから突如与えられた衝撃に格別驚きもせず、大きく頭を振って起き上がった鳳は
ぼーっとした表情のまま辺りを見渡している。
その危機感じられぬ表情に鳳は忍足は改めて閉口した。
この合宿の参加生中最も寝起きが悪いだろうジローや、低血圧で不機嫌になる跡部並みでは無いとはいえ、
鳳も寝起きが悪い。
その彼に何を聞いてもきっと今は上の空だろう。
とりあえず鳳は起きたから、と忍足が次の人間を起そうとした時。


「それに、その首の……………どうしたんですか?」


「首の?」
鳳は忍足に逆に問いを返した。
「…ん?なんやこれ………金属製?みたいやけど。」
言われて初めて嵌められた首輪の存在に気がついた忍足は自分の首元に手を当て、
ひんやりと冷たい金属のような感覚を確認する。
首輪は隙間無く嵌っており、中心で頼りないくらい小さな青い光が光っているようだ。
制服のシャツにかすかに青い光が映っている。
「光っとる……ちゅー事は、何か訳あり………か?」
手を首元に翳すことで更に確認する小さく、か細い光。
一体どうしてこんなものが自分達に?

「ほら!!……起きてください!!」
「!!…うわっ!一体なんですか!???って、此処は…???」
「僕にも解りません。いつの間にか寝てしまったので…どうやら此処は学校跡地のようですが。」

「皆、起きてきとるみたいやな。」
いきなり上がった誰かの声に周りを大きく見渡すと、
流石に自分達の他にも起きた人間がいるらしくそれぞれが周りの人間を起こし始めている。
その彼らの首にもやはり自分達と同じ首輪。
どうやらこの部屋にいる全員に同じような首輪が嵌められているらしい。
状況からいって、誰かが故意にこんなものをつけたのだろう。偶然と言うには明らかに異質だった。
「(一体、何が始まろうとしとるんや…)」
推理をしようにも、あまりにも情報が少なすぎる。
まず自分の中での記憶はバスに乗って、岳人と菓子についての話をした所で途切れている。
そして、この学校の中まで歩いた記憶は無く、ましてやこんな首輪を付けた記憶も無い。
つまり、自分は寝ている間に誰かに運ばれ、首輪を付けられた。
そう考えるのが妥当だ。

でも、なぜ?
そして、一体何が起こっている?

「…兎に角、おれ達も皆さんを起こしましょう…考えるのはその後でもいいじゃないですか。」
混乱し始めた頭に、鳳の正論が響く。
確かに未知の部分が多すぎるこの状況で、自分たちだけで考え、動くと何かと厄介だ。
下手に動けば面倒な事に首を突っ込む危険もある。
「やな。」
ここは感情に囚われず、冷静に状況を判断すべきだ。
「…おい、起きぃや。」
もう目は覚めたらしく、必死に隣にいた菊丸を起こし始めた鳳に、
忍足もまた首に嵌っている首輪に一抹の不安を感じつつも周りを起こし始めた。



*****



『どこか解らない。』
『一体、寝てしまった後に何があったんだ?』

忍足は起こしながら混乱する生徒達に話を聞いたが、返ってくる返答に殆どその2点だけ。
皆一様に現在状況を把握しかねているようだった。
解ってきた事は、皆が共通してバスの中で強烈な睡魔を感じ、寝てしまった事。
そして、気がついたらこの状況になっていたと言う事。
これは何を意味するのか…忍足は嫌な予感を感じつつも考えていた。
「それに…。」
視線の先、早くから起きていたようだった千石の豹変にも違和感を感じていた。
「(あのやかましい千石が何も無しに黙り込むなんて…)」
おかしい―――何かがおかしい……忍足はとある結論を求めまいと必死だった。

「…やはり現実の直視は辛いようだな。」
そんなざわめきを他所に、乾はノートと取り出し、一人一人の行動を書き出していた。
忍足のように必死に自身の考えを否定する為のピースを求め、行動する者。
大石のようにまず周りを宥め、冷静に状況を判断しようと言う者。
千石のように見えてしまった現状に諦めてしまう者。
逆に野村のように現実を否定しようと混乱し、騒ぐ者。
神尾のように現状を理解すらできない者。

―――それぞれの1番初めの行動は、その先の3日間の行動に直結する。
乾はこの現状を最大限に生かそうと躍起だった。

直、間違いなく皆が真っ先に考え、恐れている事態がやってくる。
それは想像を遥かに超えたものなのだろう。
だから、その前に少しでも被ダメージを抑えながらを与ダメージ大きくする為の攻撃を考えなければならない。
目指すは無血での勝利のみ。
「………悪いけど、この闘い、勝たせてもらうよ。」











「………お、おれたちどうなるんだ!!?
 これってバトル・ロワイアルなのか!???」














そして、混乱の声の中、こぼれ落ちるようにあふれた言葉。
野村の悲鳴じみた発言をきっかけにして皆の心中に内包されたモノが一気に高まっていく。

「…どうなるんだろ…本当に、オレたち…。」
「大丈夫だ、英二。…………まさか、そんな訳ないだろ?」
「でも、大石だって、否定できないんだろ!??」
「………。」
「いやだ!!!…そんな…俺は信じない!!俺が…深司達を…橘さんを!!」
「信じたくなんて、ない…!」
「どうしてこんな事になったですか…ボクたち…何か悪い事でもしたですか…???」
「そんな事ない…俺達は、絶対に間違った事は、してない。」
「…部長…。」
「じゃぁ、これは何?なんで…ねぇ、教えてよ!!!」
「もう…僕らは認めなければいけないんですかね…科せられた、この、運命を。」
「やらなきゃいけないのかな?」
「そうかもしれないダ~ネ…。」
「全てはもう決まっている、認めている…コレは運命。俺に突きつけられた、宿命。」
「だか…俺は何の為にこの戦いに巻き込まれたんだ?」
「ねぇ……答えを教えてよ…………幸運<ラッキー>の神様…。」
「…どうして…………俺は何も出来なかった………?」

例えようのない、不安。
逃げ出せない、現実。
終わりのない、懺悔。
湧き上がる、怒り。
突きつけられた、未来。
失った、理想。
2度と叶わぬ、約束。
―――色あせ始めたそれらに問うても答えなどでなくて。

それぞれが微かに思っていた事が野村を通して口に出され、皆が混乱していた。
現状を認められなくて、否定できなくて、それぞれが暴れていた。
それらが最高潮に達しようとした、まさにその時。
不意に教室のドアが野太い男の声と共にガラガラと軋んだ音を立てて開いた。



「全員、静かにするんだ!!」



「…監督。」
そこに現れたのは氷帝学園顧問、榊太郎(43)。
榊はゆっくりとした足取りで教卓の前まで歩くと、学校同士で固まっていた生徒達に出席番号順に座るよう促す。
やっと現れた、現状の真実を知っているであろう大人の姿。
生徒達は皆その声を聞き、席へとつく。

「この状況で、聞きたい事は?」
「はい。………教えてください…此処は一体何処なのですか?」

シンと静まり返った部屋に一つ響く声。
律儀に左手を高く上げ、青春学園部長、手塚がまず第一に生徒達が聞きたがっていた事を代弁する。
未来がどうであるにしても、まずは此処が危険な場所であるかを確認しなければならない。
「…見ての通り、学校だ。今は廃校にになっているがな。」
誰だって、そんな事はとっくに知っている。問題はそこではない。
この学校は一体何処にあるのか、一体どの位東京から離れているのか。それが知りたいと言うのに。
「質問の際は先ほどの手塚君のように一度挙手するように。」と榊は言葉を付け足した。
「…あの………。」
少しの間の後、今度は不動峰部長、橘が手を上げる。
「ん?お前は確か、不動峰の。」
「部長の橘です。……発言よろしいでしょうか?」
「構わん。」
「なぜ、どうして俺達はその。廃校に居るのでしょうか。」
「…。」
「確か、俺達は合宿所になっているホテルに向かっていた筈ですが…?」
手塚と違い、橘は榊の『構わん』の声と共に椅子を大きな音と共に後方に押して立ち上がり、
少々早口に質問する。
恐らく否定されても言うつもりだったのだろう。殆ど二つの言葉の発声は同時だった。
眼力<インサイト>の持ち主、跡部ほどではないとはいえ、自分も観察力にはそれなりの自信がある。
そのまま表情の奥に隠された橘の真意を全て見抜こうと思ったが、
今はそんな事を考えている場合ではないと、元に戻した。
「ああ…その事か。」
榊はきっと今の状況を解っている。そう考えた生徒達は言葉の続きの言葉を待っていた。
…予想通り、この先彼の口から出た言葉はかけはなれた現実を理解させるには十分な説得力をもっていた。
「突然だが、今回の合同合宿は中止になった。」
「………。」
「さて。ここから先は重要な話だ。しっかり聞くように…『彼ら』のようになりたくなければ。」
「え?」



………彼ら?



疑問を覚えた生徒達の思考を満たすように。榊の発言を待っていたかのように。
立て付けの悪いドアを乱暴に蹴り飛ばして入ってきたのは、銃らしき武器を持った迷彩服の男が3人。
「「「ぐ、軍人………!!??」」」
身長が高く、すらりとした体型の男。小太りで陰険そうな男。
右腕に大東亜帝国の国旗を刺青した柄の悪そうな男。
高貴とされる紫の服と胸に付けられた勲章から、 彼らが大東亜帝国軍である事は容易に見て取れた。
「んふっ…星の数が少ないですね…大東亜帝国軍、中級レベル…………って所でしょうか?」
「何でココに軍人が居るんだよ。」
正体を暴こうとする観月と、裏腹な宍戸の呟き。
20歳以上の男子には必ず一度はなるようにと告げられ、ごく一部の人間はなる事を夢見ているだろうその軍服。
しかし、この状況での軍人の出現は恐怖以外の何物でもなかった。
そして、本来なら学生達が突然の軍人の出現に驚く―――その程度でこの場は済んだだろう。
だが、今回の軍人の登場は普通の『お越しいただきました』レベルではなかった。
「………あ………あれ……。」
生徒達の視線がすぐに彼らではなく、彼らが表情も変えずに運んで来た”もの”に注がれた為に。

持ってきたのは”人”が入っていると思われる二つの袋。
しかし、その塊を詰め込むには袋は小さすぎたのか、はたまた生徒達の恐怖をあおっているのか。
小さすぎる袋から飛び出した、『元』腕だったものは、
関節の構造を無視して螺旋を描くかのように右によじれており、銃で撃たれたのだろう穴が大きく開いていた。
摩擦で焦げたその穴のその合間からは真っ赤な血が滴り落ちる。
赤に塗れた顔は原形を留めておらず、鋭利な刃物の様なものによって眼球は解らなくなるほどにえぐれている。
全身は顔同様、鮮やかな赤で染められており、
判断不能な状態の為にそれぞれが誰であるかは非常に判別しにくかったが、
髪型と赤一色になってしまった服装から辛うじて誰であったのか解る。
…が、解った所でもう既にこの世にいない彼らに対し、一体どうしろというのか。
後ろに纏められた(元々はポニーテールだったんだろう)毛の固まりから垂れる水の滴る音と、
血の匂いが引き起こす異臭だけが、静寂の中を駆け回っていた。

「……………竜崎、先生…。」
「伴田…先生……なんですか…?」

悲鳴を上げる者。死に泣き叫ぶ者。
あまりの惨状に嘔吐感を隠せない者。現状を理解する気力すら起こせない者。
自分の声も聞こえないほどの絶叫によるざわめきの中、
2つの袋を呆然と見つめ、生徒達の中では比較的冷静な行動を取れていた海堂と南は
恩師であった者の名を確かめるように口にする。
ショックを必死に押さえ、声をあげたものの、2人ともその声を殆ど聞き取る事はできなかった。
ついさっきまでなんだかんだ言いながら自分達を引っ張ってきた存在。
厳しさと優しさを持っている、身体共に師と呼べる様な存在の死がそこにあったのだから。
「彼らは最期まで政府の考えに納得していなかった。
 そして、2人でこのプログラムのメインコンピュータを破壊しようとしたのだ。」
竜崎と伴田の遺体の入った袋を心情の読めない表情で見ていた榊はそう呟くと、再び生徒達へと向き直った。
『これは終わった事だ。我々は認め、生きねばならない。』
彼らにそんな覚悟をさせるように。

「悲しむ時間はここまでだ…静かにしろ!!!」

そして、立ち込めるざわめきと、沈黙。
一瞬何が起こったのか、生徒達は判断しかねた。
解ったのは、パラパラと降り注ぐ壊れた天井から降る砂塵と、血の匂いと火薬の匂いが混ざった悪臭。
榊の後ろの3人が天井に向かって威嚇射撃を行なったのだと解るまで少々の時間を必要とし、
解った瞬間声はぴたりと止んだ。
「…あ…岳人、腰抜けてしもうたんか………。」
その音に少し離れた席に居た向日がガクガクと震えているのが見える。
只でさえ大きな音の苦手なアイツだ。2重に驚いたのだろう。
忍足はほんの少し岳人を見やり、そしてすぐに視線を榊に向けた。
もう、誰も自分のなかで確信と化している考えを否定なんて出来ない。否定する要因など、一つもない。
最後の最後までその最悪の運命を否定しようとその名を頭に浮かばせる事を避けてきた忍足も、
もうこれ以上のあがきは無駄だと判断する。
野村が”それ”を口にした時から解っていた。この先の運命。この3日間の死闘。

「さて…今日、お前達がここに居るのは他でもない。」





「今からお前達には殺しあい―――バトル・ロワイアルを行ってもらう。」





不気味になってしまった静寂の後。
榊の口から紡がれた言葉は死体を見せ付けた事との相乗効果もあって生徒達を絶望の底に叩き落した。
コレで確定した。運命は決まってしまった。

”プログラム”、”ゲーム”、”BR”。

一般的な中学生なら誰もが社会科及び大東亜帝国史の勉強で習い、知っているその言葉。
いや、この国に生きる子供なら絶対に知っていなければ生きていけない、その言葉。
BR法(正式名称『新教育基本法』)は大日亜帝国が作り出したファシズムのなれの果て。
集めた中学3年(時期によっては2年生)を島などに拉致し、一人になるまで殺し合わせる―――最悪の法律。
いや、あんなものは”法律”と言う域を越えている。
今の今まで仲間だったものを。ライバルであったものを殺せ。そう言っているのだから。

「…あの…一つ質問してもいいですか?」
恐怖に戦く生徒達をよそに、
部活で見せるような冷酷な顔をしたままの榊に向かって鳳はゆっくりと手を挙げた。
「なんだ鳳。言ってみろ。」
「…確か、バトル・ロワイアルは中学3年…いや、『中学2、3年のクラス』が選定の対象、でしたよね…?
 でも俺達…クラスじゃ、ないじゃないですか。越前くんとかなんて、まだ1年生で。」
終始冷静さを保とうとしている鳳の表情とは裏腹なたどたどしい口調。
「ど…どうして、俺達がプログラムに参加しなきゃいけないんですか…?」
「…………………。」
忍足は言い終わり、下ろされた鳳の右手がまだ小刻みに震えているのを見ていた。
目の前の監督は人を殺してはいないし、撃ってもいない。
只、この残酷な運命を伝えに来ただけだ。
だが、なぜここまで自分含め、いに知れない恐怖を感じているのだろう。
人を眼で殺しかねない部屋の空気が、質問する行為すら命をしいる行為へと変貌させる。
「…あぁ、まだ改正されたルールブックを配っていなかったな…配りながら答える事にしよう。」
榊はいつかの音楽の授業のように、手際よく荒紙の束を配る。
そう、いつかの、いつもの『授業』のように。
「(………マジかよ………。)」
だが、大概の生徒は既にどうでもいい状態になっていた。
まるで睡眠する為の時間と言っても過言ではない大東亜帝国史の授業を聞いている時の様な、
ぼーっとした気持ちにかられている。
現状を理解できない。解っているが、呑み込めない。
何故自分達はここに召集され、プログラムを受ける事となってしまったのか?

「…ここ数年に行わなわれたプログラムが劣悪な結果に終わっている。
 3年前の集団自殺、2年前の優勝者の反逆、1年前のタイムアップによる優勝者不在…
 元々少子化が深刻化し、法律の改正を申していた時、その結果もあってな。
 この度、政府議員から、来年から施行される予定のBR法改正案が提出された。
 対象を『中学生のクラス』に限定せず、特定の能力を持っている集団までその視野を広げる事。
 『死神』というプログラムを円滑にまわす為の専用の役を作る事を主な変更点として。 な。
 そして、今回はその改正案のルールで行なわれる記念すべきテストプログラム。
 これからのプログラムのあるべき方向を記す重要なものとなる。……光栄に思うといい。」

皆黙っていた。
いや、『黙っていざるを得なかった』と言うべきか。
元々、仏国の貴族達の間で始められたスポーツであるテニス―――もとい、庭球。
政府の民衆の暴挙を防ぐ為の飴と鞭政策の一環で敵国のスポーツ全般のゲームは許されていたが、
やはり敵国で生まれたスポーツ。半鎖国状態を決め込んでいる政府がいい目で見ているわけはない。
そのスポーツの成果が世界の舞台で好成績をとり、
数多くの大会で優勝して外貨を獲得できるレベルならまだ問題は無かったが、
生憎最近のテニス種目、特に男子テニスは海外選手に上位を奪われる事が多く、
あまり政府が乗り気ではなかった。
実際、本来なら今頃行なわれる筈の関東大会は、「運営上の理由」などという理由により中止された。
BRの改正案が出された場合、真っ先に狙われるのは―――自分達のような『目の上のコブ』。
中学生と言う、続けるかも未定な人間に、政府のスポーツ不振の八つ当たりが向けられる。
「………。」
もちろん知っていた所で湧き上がる感情を完璧に押さえつける事は無理に等しかった。
越前はひたすら榊に睨みを効かせていたし、亜久津は口の動きだけで『下衆野郎、死ね』と呟いている。
それらを見て忍足もまた一回り教室を眺めた。

「では、次に大日亜帝国の歴史の勉強を怠った者。
 お前達の為に、プログラムの基本説明・及び現状の確認をさせてもらおう。
 まず、ここは大日亜帝国の某所にある島、中芽津<ナカメツ>島。
 関東地方のプログラムはこの島と、もう1つ、別の島で行われている。
 まあ2つとも地図にも載っていない小さな島だ。 名前を聞いたところでお前達にはどうしようもないだろう。
 そして、先ほども言ったが、この島でお前達には最後の1人になるまで殺し合いをしてもらう。
 3日経っても複数の生存者がいたり、24時間たっても死者が出ない場合。
 その時には首につけられている首輪が全て爆発する。
 …変に弄ると首輪についている装置が心拍数を感知できなくなり爆発する。
 実際に何件かあったらしいからな。自分の命が惜しいなら触らない方がいい。」

榊の淡々と語られる言葉を聞き流す為、何となく首輪を触っていた数人はその言葉を聞き、ぱっと手を離した。
ここで手を離さない人間がいたら、榊は容赦なく撃っていたかも知れない。
「話を聞かず、こんな事で死んだら誰だってたまんないよね…相変わらず政府の嫌なヤリ方だ。」
「…幾ら監督だからって、こんなの…」
そんな様子を見ながら滝、日吉の二人は、お互いに誰にも聞こえないような声で呟いた。
とって付け加えたように重要な事をさらりと漏らすそれは全て行動後に発言され、
聞いていた生徒は恐怖と危機感を募らせる。
それはやがて不信感となり、無意識にゲームに乗る為の下準備となる。
榊の行動は全て計算しつくされたものなのだろう。それがあの人物の本心かどうかは別として。
「(これ以上やってたら誰かに殺されるで…監督、よ…。)」








「…ふざけるな!!!」







―――直後。教室が、揺れた。





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