バトテニTOP>>長編テキスト(1日目)>>007『後悔』




―――きっと、僕らはいがみ合わずとも済んだんでしょうね…
そんな事をとりとめもなく考えていました。

君は僕らの関係をどう思っていますか?
僕が「和解しよう」と言ったら、してくれますか?
…無理でしょうね。
あれだけの事をしたんです。わかってます。

―――ごめんなさい―――


…今更、君に対しての態度を詫びている僕は、本当に卑怯者ですね…。











BATTLE 07 『後悔』









「32番…不二周助」
「…はい。」

地獄への送り出しも終盤に差し掛かり、ついにやって来た自分の名前を呼ばれる瞬間。
仲間に殺されないという絶対的な保障がなくなる瞬間。
誰も信じる事の出来なくなるこの状況でいつになく自分が緊張しているという感覚を、
不二は手の平が汗ばみ、濡れている事で感じていた。
冷静に状況を受け流すのがいつもの自分のパターンである筈なのに。
やはり、このプログラムの中ではテニスでは『天才』と呼ばれる自分もただの人間と言う事か。
「…………………………………。」
そして、恐らくいるのだろう。
テニスにおいて精鋭である自分達の中から、更に『BRの天才』と影で呼ばれる事になるだろう人間が。
ボクはその人間達と関わって生きていけるのだろうか。

「…兄貴。」

後ろから掛けられる心配そうな声。
こんな状況に追い詰められても尚自分が冷静でいられる理由。
「裕太………」
不二は自分の後姿を真剣な眼で見つめる弟、裕太を振り返り、笑いかけた。
兄弟して参加なんて…最悪だな。そう、改めて思う。
コレが兄弟最後の会話になるかも知れない。だから、後悔をしないように言うべき事を言うつもりだった。
「ボクは大丈夫。だから…裕太は絶対に生き残るんだよ?」
言った途端、裕太の顔が見れなくなった。
目の前が滲む。ゴミでも入っただろうか、いや違う。自分が泣いているんだ。
見るに見ていられず、思わず背を向ける。
この状況で本当に辛いのは自分を見送って沈黙の2分間を過ごす弟の方なのに。
「…じゃぁ、行くね。」
移動し、兵士から投げつけられたディバックを胸全体で抱える。
そして、再び涙目になっていない事を確認して振り返り、視線を移動させた。
「(……………裕太……………)」
何かを考えているのか。それとも彼もまた別れに悲しみを感じているのか。
裕太は視線を合わせない。
「…。」
弟の姿を焼き付けるかのように見つめた後、不二は兵士達に囲まれた廊下へとゆっくりと歩きはじめる。
「………………………。」
裕太は最後まで不二の方を見なかった。




飛び出した深夜の小学校は、響き渡る自分の靴音と軋む床以外は沈黙が支配していた。
暗闇に兵士達の死んだような無表情が浮かび上がり、不気味さと違和感をかもし出している。
こんな所を仲間達は歩いて行ったのか。不安が募る。
沈黙や闇は人間の恐怖心を煽り、混乱した理性は本能を受け入れ、考えたくもない事を考えさせる。
自分の番号は32/40。
半分以上の人間がすでに「戦場」にいるという状況下。孤独の恐怖はそれほどではない。
むしろ後故に自分よりも先に行った人間で構成されているプログラムの現状が自然と気になってしまう。
この校舎を出た、今この時までに一体何人の人間が桃城のように命を落としているのだろう?
「…バカだ。ボクは。」
自分を酷く嫌悪する。
ゲームが進むということ 人が死ぬということがつまりはどういう事なのか知らないわけじゃないのに。
対先ほど後輩の死を見ながらも、顔色一つ変えない自身の凍り始めた精神といい、
だんだんボクはダメになっている気がする。
「…裕太…。」
そんな誰とも会わずとも、死を見ずとも精神が犯されてしまいそうなこんな状況で気になるのは
仲間でも、ましてや自分の事でもなく、自分と同じ運命を辿る事になるであろう不二裕太、彼の事。
天才と称された兄がいた為に『天才、不二周助の弟』としてしか見られず、
自己の存在を求めて聖ルドルフ―――観月の元へと歩んだ、弟。
そして、その観月に駒のように使われつつも、それでも彼を慕っている、弟。
もっと早く彼の苦しみに気付く事が出来たなら…
もっと早く彼を支える事が出来たなら 、ボクは…………果たして何ができただろうか?
「…それより、裕太の為にも行かなきゃね。」
事前に裕太に渡しておいた小さな紙切れの内容を思い出す。

『ボクは北の集落で待ってる。…”誰にも”話さないようにね。』

アレを書くには勇気が必要だった。
裕太は誰かに襲われたりしない限り、きっと自分と行動を共にする為に集落へと来るだろう予想があった。
流石に極限の状況下で最も信頼できる人物が自分だとは思っていなかったけれども。
問題は、その更に後方にいる、ルドルフの頭脳。
裕太が自分以上の信頼を置いているかも知れない人物―――観月、はじめの存在。
彼にこの情報が伝わる事を不二は恐れていた。
「でも、例え裕太が来なくても…」
『少なくとも『兄』としてボクを見てくれるよね?』言いかけて、止めた。
自分は彼の繊細な心を傷つけた張本人。そして、今の彼にとって自分は目標で、コンプレックス。
兄である事を誇る事など出来ない。そもそも裏切らない保障は無かった。
もしかしたら彼の後にやってくる観月の方に流れるかも知れなかった…あの日のように。
「でも…………………待ってるよ。ボクは。」
乾の集めたデータのように確率や計算で求められたものではない、不確かなもの。
もしかしたら、所在が解っている自分をまず先に殺しに来るかもしれない。
それでも、待っていたかった。それでも、信じていたかった。
これは、彼への懺悔のつもりなのだろうか?
「だから、それまで。」
この精神を抉り取られそうな状況で自身を安定させる為なのか。
元々、日常から無意識に行なっていた行為に今更になって気がついたのか。
弟へ向けた言の葉を独り呟きながら、不二は大きく口を開けた夜の闇の中へと姿を溶け込ませる。

「………………ボクは生き延び続けるから。」

終始笑顔のままだった不二の目が開く。
本気でいかなければならない。覚悟を決めていた。



*****



「やっぱり、不二君の事…心配ですか…?」
「…観月さん…」

不二がいつもと変わらぬ足取りで教室から出て行った後。
ずっと黙り込んでいた裕太の様子に気付いた観月は軽く肩を叩き、囁くように声をかけた。
もちろん榊に待ち合わせや計画の打ち合わせだと思われないようにそれなりの大声を上げて…だが。
「わかりません。」
「………大丈夫ですよ、不二君は。
 彼は僕が無二のライバルと認めた人物です。こんな所で終わる訳がありません。
 それに。裕太君、君を放って置く人物でもないでしょう。」
そう言いながら、観月は仲間内ですら滅多に見る事のない笑顔を裕太へと向けた。
「……。」
真剣で前向きな観月の瞳。裕太は初めて直視した気がした。
「(観月さん…何かあったんだろうか…?)」
観月が兄と対戦し、敗北した日から、どこか変わったような気がする。
笑顔が多くなったのか、優しくなったのか。
少なくとも観月はツイストスピンショットを打つ事を無理に勧めなくなった。
いや、『無理に勧めなくなった』と言うよりは、『反対するようになった』と言うべきか。
裕太はその急激な変化にも戸惑いを感じていた。

『…裕太君…あの技…「そのままでは」暫くは打たないようにしてください。』
自分達にとって最後となってしまった大会が終わった後。
部活が始まる直前、試合中には絶対に見せない物腰のやわらかい声で突然言われた技の封印。
今まで使わない日は無かったと言うほどだったので、裕太は驚き、すぐに理由を聞いた。
観月だって、ツイストスピンショットがあの越前を大いに苦しめた事を知っているはずなのに。
『…でも、なんで急に…?』
『僕は只………来年のルドルフの為、裕太君という戦力を大事にしたいだけです。彼の…。』
『彼の?』
『…さぁ、練習を始めますよ。コートに行きましょう?』
そう言って観月はさっさとタオルを片手に部室を後にしてしまった。
もしかしたら、観月はあの試合をきっかけに勝利を貪欲に求めなくなったのかも知れない。
大会が終わったからと言ってしまうとあんまりだが、練習でも打たせないというのは何かが絶対にある。
それは彼の本心から来る思いやりなのか、彼が言った通り、来年の為の戦力の維持なのか。
裕太はそこに深く突っ込む事をよしとしなかった。
そこは聞いてはいけない気がした・・・なぜだか解らないが。

「…33番。不二裕太。」
「!…はい!」

などと考えているうちにインターバルの2分が経ってしまったらしい。
榊の少し怒りの入った声にはっとなった裕太は、慌てて持ってきた鞄を肩に掛け、
兵士から投げつけられたディバックを落とさないようにキャッチしながら教室の出入り口へと向かう。
「裕太君。」
「………観月さん。」
ルドルフのメンバーが出て行く際、必ず観月は一言かけた。
だからかかった声に、裕太は振り向かずに応える。
振り向けない。思い出してはいけない。
兄が自分の顔を見た瞬間に涙を浮かべたのをその時になってありありと思い出す。
一時の別れなのに、とてもとても遠い別れになってしまう。そんな思いを感じ、裕太は兄の気持ちを察した。
涙をこらえ、兄弟を置いてここを去ることがどれ程に辛いのかと言う事を。
「迷わず不二君の所へ行きなさい。」
「え。」
「僕は彼が何処にいるかは知りませんが…君なら知っている筈です。」
「………。」
「そして…もし、君が選択肢に迷った時は、必ず彼の元に行きなさい…いいですね?」

裕太は無言で頷いた。


*****


「…ふう…。」
霞のかかった形のよい月を仰ぎながら、不二は北の集落の中心にある公園に1人佇む。
ここにいれば『北の集落』という広いエリアの何処からでも裕太を見つける事が出来るであろうと思ったから。
しかし、それは誰からでも見えるという危険と隣り合わせの行為。
不二は辺りをキョロキョロと挙動不審気味に見回した。
こんな所で、裕太に遭う前に殺されてしまってはここで危険を冒して待っている意味がない。
「(!!…おや…………?)」
気持ちを落ち着ける為、深く深呼吸した時にふと感じた、雨が振る時特有の冷たく、湿った風。
少なくともここ数日のうちに、この島に雨が降るんだろう。
そういえば、姉さんが雨になるから気をつけてなんて事を言っていたような気がする事を何となく思い出した。
「ボクがここに来ててからもうすぐ1時間経つんだね…。」
思い出したように見た時計。針が正しければ午前3時をさしている。
もうかれこれゲーム開始から3時間。
だが、自分を含めた殆どの人間が嫌うであろう定期放送は幸か、不幸かまだ流れていない。
亡くした仲間の名前が何人呼ばれるのか、その中に弟の名前はあるのか…………
軽い現実逃避を止めた不二の脳は再び嫌悪したい事柄を取り上げていた。
もういい加減に、止めなきゃいけない…解ってはいるのだが。
「はぁ………………。」
単調な自然音のループに段々気がめいってくる。感情表現が下手になってくる。
これ以上精神を削っていては身が持たない。
すぐにそう実感した。
「そろそろここにいるのも危ないし…どっかの家に隠れるようか…」

「…兄貴!」

声がやけに懐かしく感じた。
それぞれ帰るべき場所を変えてから1日声を聞かない事なんてざらなのに。
でも、そんな事でも涙が溢れそうだ。
………本当にボクは感情表現が下手になってしまった。
「!!裕太…!よかった、無事だったんだね…。」
弟の突然の出現。
それは今まで脳裏で繰り返されていた最悪の事態と呼ばれるものを払拭するには十分すぎる事柄だった。
喜びに我を忘れて騒ぐ不二を押され、深刻な顔をした裕太はすぐに兄を宥めた。
「とりあえずここは危ない…兄貴、急ごう。」
「!!………そうだね。」
その通りだと不二は大人しく裕太に言い従った。

「…そう言えば、どうして遅れたの…?」
近くの森の中に隠れ、話し合った二人が目的地として定めたのは南の集落。
そこならゲームに乗らない者達が集合場所にしている可能性があったからと言うのが大きな理由だった。
北の集落は不二がしばらくいても人間が現れなかった事を考えると合流には不向きと判断したのもある。
2人の共通の思いは出来る限りこのゲームに乗る人物が少ないであろう、青学・不動峰、
そしてルドルフに合流を果たしたいと言う事。
だから、その途中少し気になっていた事を、不二は裕太の顔色を窺いながら尋ねた。
『二つに分かれた道で右を取るか、左を取るか。』
それだけの事で自分達の生死が決まってしまうかも知れないこの3日間。
知れる事は全て知っておきたかった。
もしかしたら聞いてはいけない事かと思ったが、それでも聞かなければいけなかった。
些細な事でも直前に言われれば困る事がある事を知っていたから。
「………あぁ。ここに来る途中で銃声が聞こえて…それで遠回りしたんだ。」
つい数十分前、西の方の森から聞こえた数発の銃声。
それが誰の銃から誰に向けて放たれたのか裕太は知るよしもなかったが、
少なくとも、誰かが誰かに向かって銃を放ったという事を悟るには十分だった。
誰かがゲームに乗っている?
誰かがゲームの餌食になった?
『死神』か?
それとも仲間だと思っていた奴等が?
一応の為、警戒を怠らずに裕太は少々東よりに迂回し、北の集落へと足を向けた、ということらしい。

「…そうか、それならいいんだ。」
裕太のすまなそうな顔に居心地がよくなくなった不二は顔を裕太から離した。
手持ちぶさたを思い出したように右手に握っていた地図を確認する。
出来るだけ早く学校周辺から離れたかった。
まだゲーム開始から時間がたっていない森を闇雲に歩けば、ゲームに乗った人物と遭遇する可能性が高い。
さっき、西の方で銃声が聞こえたとなるならば尚更だ。
彼らはそんな人物…少なくとも自分たちの通っていた青学・聖ルドルフの二校にはいないと思っていたが、
それでも警戒はすべきだった。
それがこのゲーム―――バトル・ロワイアルだから。
「じゃぁ、移動を開始しよう。誰にも会わないよ」

「…んふ…奇遇ですねぇ…不二君と裕太君じゃないですか。」

色々なものが凍りついた。
「観月さん!?」
不二が移動を開始したその瞬間、背後からした草陰を揺らす音と声。
はっとして振り返ると、そこには両手を挙げ、抵抗する気が無い事を主張している観月の姿。
「驚かせてしまったようですね…でも、僕はこの通り、ゲームには乗りません。安心してください。
 たまたまここに隠れていたら君達に会いましてね、一言言っておこうと思ったんですが……」
「………。」
「信じてなんてもらえないでしょうね。」
鋭く交差する視線。
険しい表情を向ける自分とそれを真っ向から受け入れる観月。
彼ならばこの状況で危険を冒してまで人前に出ると言う事の危険を知っている。
それに、何の考えも無く出てこれるほど無鉄砲な行為に出れるような度胸のある人物じゃない。
もしそれが裕太だけならありえるだろうが、ボクもいる中、出るだろうか。
ボクが観月の事を良く思ってないのは当然知ってるだろうに。
果たして、紡ぐ言葉は嘘なのか、真実なのか?
「あ、観月さんも一緒に来ませんか?それに、手、下ろしてください。」
だが、廻らせていた考えは、裕太の提案に遮らざるを得なくなった。
「裕太!」
「だって人数が多いほうがいいだろ…?兄貴。」
「…それはそうだけど…。」
例えゲームに乗る気がない事が本当だったとしても観月と共に行動する事は避けたかった。
肩を壊す危険性のある技―――ツイストスピンショット。
その危険性を知りつつもそれを平然とした顔で打たせていた観月。
勝つ為には手段を選ばず、仲間達を完全勝利のストーリーへと導く為の駒程度にしか考えていない、
そんな冷酷な人物である彼を好む事も、ましてや信頼する事など…出来ない。

「ごめんゆう」
「僕は、一緒にはいけません。」

しかし、裕太に難癖をつけてでも同行を避けさせようと声を発しようとした不二を遮ったのは、
手をゆっくりと下し、知性的<インテリ>な表情を浮かべた観月の声。
その表情には諦めのような、覚悟のような、そんな感情が支配していた。
意外だ。
「な」「僕は君達と同行できません。いや、その資格すらありません。」
そして同様にピシャリと裕太の次の言葉も遮る。
「裕太君…僕はキミが思ってるほどいい人間じゃあ、ない。」
「観月。」
「僕ははツイストスピンショットによって、君の肩を壊しかねない事をした。
 あえてオーダーをずらし、越前を狙わせた。それらを聖ルドルフの勝利の為、黙っていた。」
「…………。」
それは独白。
演劇の一部分のように流れるひとりごと。
「…でも、不二君に負け、ルドルフが負け、橘君に言われた時、思ったんです。
 『僕は現状の強さに囚われて、未来にある様々な可能性をつぶしているんじゃないか?』と…ね。
 裕太君や越前君なんかを見ていると、よく思うんですよ。
 君達は何処までも伸びてゆく。データにない奇跡を生み出してゆく。
 それに…裕太君には時間がある。ならば、その確信のない可能性に賭けてみてもいいんじゃないかと。」
「……。」
「今となっては後の祭りですし、謝っても許してもらえないってわかってます…でも。
 言わせてください。ごめんなさい…本当に済みませんでした…。」
そう言い、観月はゆっくりと踵を返して歩き始めた。どうやら言いたかった『一言』とはこの事だったらしい。



「…返事も聞かないで行くのかい…?」

ピタッと、驚いたかのように観月の足が止まる。
その言葉の発生元である不二自身、何故自分の狙い通りに去ろうとした観月を呼び止めてしまったのか
よく解らなかった。
今まで難癖をつけても彼と離れるつもりであったのに。
とにかく、呼び止めてしまった手前、今思っている事を言う事にした。
「…意外だったよ。キミが僕や裕太に謝るなんて。」
キミは絶対に自分の行動に後悔なんてしない人だと思っていたから。
「だから、素直に謝ってくれた事には礼を言うよ…ありがとう。
 そして…裕太には悪いけど、ボクも観月と一緒には居られない。」

知っても許すことはできない。
今は打たせてないって言っても、打たせてた事に変わりはない。

「そうですね…君も僕と一緒になんか居られませんよね…んふ。不二君らしい答えです。」
後ろ姿の観月がくすりと笑った。
多分、返答が予想通りだったからであろう。
「さて…。」
観月に背を向け、不二は2人の間でこの状況下での行動に迷っている裕太の姿を横目で見た。
ボクや観月はお互いに3人で行動する気はない。少なくともはボクはそう思っている。
でも、裕太にとって自分は兄であり、観月は尊敬すべき人物だ。
3人で一緒に行きたいに違いない。実際、さっき裕太は観月に同行を求めていたのがその証拠だ。
「裕太…」
だから、嫌な選択をさせてしまう事は目に見えていた。
「さぁ、裕太君…僕か不二君か…これから共に行動したいと思う人物を選んでください。
 僕らは互いにいがみ合いすぎました。
 こんな状況下でなくとも、お互いを信用など出来ない立場になってしまったんです。
 もしかしたら同じ道を共に歩む事も出来たのかも知れません。でも、もう出来ないでしょう。」

「だあら……選んでください。」

観月の言葉を只、聞いていた。
そう…ボクも観月も裕太を護りたいということでは、今は同じ気持ちだった。
ボクがもっと早く裕太の苦悩に気がついていれば、観月の気持ちがもっと早く伝わっていれば、
裕太に運命の選択をさせずとも済んだんだろう。自分はこんなにも苦しい痛みを背負わずに済んだんだろう。
3人で、きっと歩いていけたんだろう。
でも、もうそれは出来ない。後悔しても始まらない、根本の、ミス。
「「…。」」
ボク達は只、裕太の返答を待った。





「俺は…このまま兄貴と行くよ。」





―――観月さんは酷い人だ。
俺に『君が道に迷った時は彼の元に行きなさい。』と言っておいて、わざわざ選ばせるマネをする。
今だって、兄貴の方へいくようにと、さりげなくそんな態度をとっている。
俺が自分の方に行かないように突き放しているんだ。
…それだけ、俺に自分の事を忘れて欲しかったのか?それは観月さんにしかわからないけど。
「そうですか。わかりました。
 …あぁ、もう一言。僕は南西にある古小屋にいるつもりです。なにかあったら…呼んでください?」
「解ったよ。」
「…また、会えるといいですね。不二君、裕太君…。」
観月はそのまま森の中へと姿を隠してしまった。

「「………………………………。」」

「さぁ…行こうか、裕太。」
「あぁ…。」
ボクも裕太も観月と分かれて歩む事を望んだ。
でも、何故こんなにも後ろ髪を引かれるような感情になってしまうのだろう?
『裕太(君)を、護りたかった』 本当にボク達は同じ道を共に歩む事が出来ただろう…今だって、きっと。
でも、お互いに同じ者同士なボク達は、お互いに素直になれなかった。お互いを信じ切れなかった。

―――…キミはボクが『和解しよう』と言ったらしてくれた…?
―――キミはボクが君の事を許したらどうするつもりだった…?

それを後悔しながらも、やっぱり同じ者同士のボク達は、素直になる事が出来なくて。
…こうなる事は解っていたはずなのに。
「…。」
ボクは、裕太のように他者を信じられる心が欲しかった。
あれが観月との最期の会話になるかもしれないけれど、最後のチャンスだったのかも知れないけれど。
でも、立ち止まる事は出来なかった。
常に無限といえる選択肢から一つを選択し、それを元に自分の中の世界を切り開く。
それが運命と言うものなのだから。

後悔の思いは膨大な選ばれる事の無かった選択肢と共に、記憶の闇へと消えていった。








【プログラム1日目 残り人数 38名】





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